将太さんは、ハンドルを握っているときは絶対によそ見をしなかった。
信号が赤のときくらい、こちらを向いてくれないものかと思ったが、なかなか見てくれない。
本当に横を見たいときくらいしか見てくれなかった。
なぜかと問うと、
「ハンドルを握るときは死ぬ気で握れと教わりましたし、今は人を乗せてますから、いつも以上に慎重に運転しないとなと思いまして」
と、相変わらず前を見たままそう答えてくれた。
…まあ確かに、今は3人の命を預かっているわけだもんね。
祖父母がついてくるなんて言うから。
2人がついてくると言わなかったとしても、わたしの命を預かることになるわけだが。
「いやー、私だけ私服だとなんだか浮いてしまいますね」
沈黙してしまった車の中、将太さんが不意にそんなことを言った。
確かに、祖父も祖母も着物を着ているから、1人だけ私服だと逆に目立つ。
…わたしとしては、その方が彼氏として見られやすい気がするからこれでいいけど。
ほら、将太さんまで着物だと、お兄さんかなって思われてしまうでしょう。


