心当たりがあるのか、軽く息を吐いた将太さんは、仕方ないですねとつぶやく。
そうして、またニコリと優しく微笑んでみせた。
「分かりました、来週の土曜日ですね」
なんとか承諾してくれたらしい。
良かったと胸をなでおろして、わたしもつい微笑み返す。
自然とこぼれ出たわたしの笑みに、将太さんはさらに笑顔になった。
「じゃあ、待ってます」
それだけ言うと、将太さんは「分かりました」と言ってわたしに背を向けた。
いかにも仕事帰りらしい彼の背中が遠のいていくのをしばらく見つめる。
それからわたしは、大きく息を吐きながらその場にしゃがみこんだ。
一言で言えば、ものすごく緊張した。
先生や家族以外の大人の人と話すのは久しぶりなのもある。
それ以上に、あの人がもし手紙を書いてくれている人だとしたらと思うと、心臓の音がうるさくて。
頬がじんわりと熱を帯びるものだから、嫌でも恋してることを実感させられる。


