鞄の持ち手を握りしめて、わたしは将太さんを見つめた。
「わたしは、佐川 暖々です」
名前を告げると、将太さんは知ってますよ的な雰囲気を漂わせる。
口では「そうですか」と言っているけど、顔が明らかに知ってると言ってる。
…素直、というか顔に出やすいのかな。
でも、知ってるということは、やっぱり。
だけどなかなか聞くことができなくて、目をそらすと、将太さんの後ろにあるファストフード店が目に入った。
…今話せないなら、話を整理してから話せばいいんだ。
お茶を断られてしまったけど、また会う約束をすればいいんだ。
…もう少し早くの時間なら、少しくらい会ってくれるはず。
土日もあるし、仕事忙しいかもしれないけれど、1時間くらいなら会ってもらえる、はず。
「あの、土日、お時間ありますか?」
勇気を振り絞って尋ねると、将太さんは少し考えてから首を横に振った。
「今週は無理ですが、来週の土曜日なら空いてますよ」


