宛先は天国ですか?




「学生さんが、簡単に大人の人に声をかけてついていっちゃあ駄目ですよ」

クスッと綺麗に笑ってみせて、わたしから離れる。


…あれ、これってもしかして、子供扱いされてない…?


いや、20代後半の人からしたら、高校生なんてほんと子供なのだろう。

けれど、高校生からしたら20代なんてわたしたちとなんら変わらない。


「…じゃあ、お名前、だけでも、教えてください」

ぎゅっと拳を握りしめて、恐る恐る尋ねた。

彼は少しだけ驚いたあと、また困ったような笑みを浮かべる。


「…名前、ですか…」


…もしかしたら、この人がわたしの好きな人かもしれないから。

名前だけでも知れたなら、いつかまた会えるかもしれないから。


じぃっと彼の目を見据えていると、彼は仕方ないなと言いたげに頭をかいた。


「中野 将太、です」


中野将太…、声を出さずに唱えてみる。

いい響き、素敵な名前。