掴んで、その人が振り返ってきて、ハッとした。
特に用事はない、いや、なくはないんだけど。
「あー、あの、えっと…」
掴んでいた手を離して、何か言葉を取り繕おうとするけれど、何も思いつかない。
もじもじとして黙っていると、ふと彼がふわりと微笑んだ。
街はもう暗くなっていて、街灯がちょうど彼の顔を照らしている。
「なにか、御用でしょうか?」
丁寧な言葉で返してくる彼に、わたしは「その」と口ごもった。
心臓の音がうるさく鳴るものだから、言葉がうまく出てこない。
「お、お茶でも、どうですか…?」
焦って出てきた提案は何とも言えないお誘いで、彼は少し困った顔をした。
そりゃあそうだ。
初めて会ったばかりの人にお茶しませんかと言われて、困らないわけがないじゃないか。
それを言ったら、わたしもいきなり手紙のことについて言われたわけだけど。


