宛先は天国ですか?




将太さんと2人きり、無言の空間がなんだかそれをにおわせる。

わたしだけまったく別の世界においていかれてしまったような、そんな感覚にさせる。


「…元気、ないですね」

電車を待っている最中、大丈夫ですか?と顔を覗き込んできた将太さん。

それで顔を上げるとふと目が合ってしまって、思わずドキッとして目をそらす。

「そんなこと、ないですから」

誰かに相談したら少しは楽になるって分かってはいるのだけど、やっぱり言えなくて。

言いたくても、真っ先に口から溢れるのは否定の言葉。


でも、今度ばかりは将太さんも、「そうですか?」と念を押してくる。

目を合わせられないからますます疑われているようで、わたしはかたく口を閉ざす。


…言ってしまえば楽なのに、どうして言えないのか。


コテンと首を傾げながら、わたしの顔をまじまじと見た将太さんは、

「今日、何か嫌なことがあった、と言いたそうな顔をしていますが」

ふいっと電車のくる方を向きながらそんなことを言った。

思わず自分の頬に手をあてがう。

…わたし今、そんな顔してるの…?