俺が泣きそうなったのは
嬉しかったからだ。

「責められているなんて思ってないから」

そんなこと、
これっぽっちも思っていない。

「心配してくれたことが嬉しかったんだ」

「貴也」

俺達を囲んでいたファンクラブの連中は
別れろと目で訴えていたが
何があっても俺達は別れない。

これなら一学期の
染野のGAMEの方が
断然楽だったな。

「守ってやれなくて悪い」

雪村も心配してくれてるんだな。

「心配してくれて
ありがとうございます」

俺が言う前に慎に言われたな(笑)

「慎、明後日からは
一時間目が終わったら
食堂に行くぞ」

とにかく、一人にならないことだ。

「いいよ。
また囲まれるの嫌だもんね」

友達にも恋人にも恵まれて
俺は幸せ者だよな。

あの日から早一ヶ月。

教官室に行けないのは
仕方ないと諦めて
休み時間や昼休みは
トイレ以外は教室にいることにした。

こういう時、携帯があって
よかったと思った。

十月半ば、中間テストが始まった。

午前中で終わるため、
勉強も兼ねて昼食は
慎ん家でご馳走になることになった。

まぁ、帰って一人で
作るのも面倒だし有り難い。

「亮に会いたい」

テストは仕方ない。

ただ、半月近く
本人達に会えていない。

「僕も雪村先生に会いたい」

慎の部屋で
二人でため息を吐いた。

下手に動くと亮達の立場が悪くなる。

「ねぇ貴也」

わからない問題でもあったか?

「ファンの子達は
的木先生ん家知らないよね?」

違ったか(苦笑)

言われてみれば
家に行ったことは
指摘してこなかったな。

「多分、知らないんじゃないか」

「テスト終わったら行ってみるか?」

提案すると嬉しそうに頷いた。

テスト期間はあと三日。

「とりあえず勉強しなきゃな」

明日は苦手な数学がある。

「そうだね」

**三日後**

今日はテスト最終日で金曜だ。

昼食をご馳走になった後
俺ん家に泊まるという名目で
(本当は亮ん家に行くんだけどな)
夕方、俺ん家に帰って来た。

「突然行ったら亮達驚くかな(ニヤリ)」

「かもね(笑)」

そんな会話をしながら
駅に向かい、電車に
揺られること十五分。

亮ん家がある駅に着き
タクシーに乗った。

マンションに着き、インターフォンを鳴らした。

「はーい」

「俺だけど開けてくれないか?」

一瞬の沈黙。

俺が正確には俺達が
来ると思ってなかったんだろう。

「えっΣ(๑°ㅁ°๑)!? 貴也!?」

凄い驚きようだな(笑)

「いらっしゃい」

玄関を開けてから
更に驚いた表情(かお)をしたのは
俺の隣に慎がいるからだろう。

「笹山君も一緒だったんだね」

俺一人だと思っていたんだろう。

「こんばんは」

律儀に慎が挨拶をした。

「とにかく上がって」

今年は珍しく残暑が続いていて
十月半ばなのに蒸し暑い日がある。

「お邪魔しまーす」

二人で言って中に入った。

「雪村は?」

ソファーに座りなが訊いた。

「今、電話したからすぐ来るよ」

話していたら玄関が開く音がした。

「静、いらっしゃい」

「雪村、久しぶりだな」

学校ではあまり話せていなかった。

俺に続いて慎も挨拶した。

「お久しぶりです」

ここ一ヶ月弱の寂しさを
ぶつけるように雪村に抱き付いた。

「久しぶりだな」

学校では見せないような
優しく顔をした雪村がいた。

「なぁ亮、今日泊めてくれないか?」

最初からそのつもりで来たんだけどな。

「勿論、笹山君も泊まってくでしょう?」

当然のように亮が言うと
雪村が口を挟んだ。

「笹山はうちに泊めていいか?」

何で俺達に訊く?

抱き締めている本人に訊けよ。

「貴也、どうする?」

いや、だから、本人に訊け❢❢