普段は使わないコーヒーミルで豆を挽き、もう夜なのでカフェインの少ないものを用意した。
カップも、普段は滅多に使わないお客さん用のものを用意。コーヒーを注いだ時、リビングから声が聞こえた。
「先輩、スマホ鳴ってますよ」
「え?」
こんな時間に……誰だろう。
慌ててスマホを取りに行くと、那月君が座っているソファの前にあるテーブルに置きっぱなしだった。
電話ではなかったようで、画面をつけると、送り主のところに『社長』の文字。
那月君、もしかして見えちゃった、かな……?
「……誰からですか?」
あ、見えてなかったみたい。よかった。
「えっとね……親戚の、人」
一応嘘ではないので、笑顔でそう答えた。
社長から……なんて言ったら、いろいろと説明しなきゃいけない。今はまだ、話す時期ではない気がする。
この時のわたしは、那月君の様子がおかしいことに、気がついていなかった。
「どうぞ。ブラックでよかった?」
「はい、ありがとうございます」
暖かいコーヒーの入ったカップを、テーブルの上に置く。

