「敬語も、禁止なのに?」
「はい。禁止です。破ったらキスします」
「……っ!」
ふいっとあからさまに目を逸らし、こくこくと首を縦に振れば、離された手。
騒がしい心臓を落ち着かせようと、気づかれないように「ふぅ……」と胸を撫で下ろした。
「狭いけど……どうぞ」
那月くんの家と比べるのもおこがましいくらいの広さ。なんだか上機嫌の那月君をリビングへと招き入れ、ソファへ案内する。
「先輩って、やっぱり綺麗にしてるんですね」
「え?やっぱり?」
どういう意味、だろう。
「先輩のデスク周りが汚れてるところ、見たことないんで」
あ、なるほど。
ていうより、那月君そんなところまで見てたんだ。これからはより一層、デスクを綺麗に保たなきゃと、心の中で気を引き締めた。
「ものが散らばっていると、落ち着かなくて」
「俺片付け苦手なので、尊敬します」
「ふふっ、なあにそれ。座って待っててね。コーヒー淹れてくる」
お母さんとお姉ちゃん用に、コーヒー豆を買っておいてよかった。那月君は甘いのがあまり好きではないのか、いつもストレートを飲んでいる。

