【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



よほど寒かったのか、那月君は両手を口の前に翳し、はーっと温めるように息を吐いていた。


「身体冷えてるでしょう?ごめんね」


もうそろそろ、マフラーや手袋が手放せなくなる時期かもしれない。

那月君が羽織っているコートはとても暖かそうには見えなくて、帰りに防寒のものでも渡そうかなと思った。

確か、青いマフラーが家にあった気がする。


「先輩、謝りすぎです。ごめんなさいより、ありがとうの方がいいです」


…え?


「ご、ごめんなさい……っ、じゃなくて、ありがとう」


そんなにも謝っていた自覚がなかったので、驚いて口を開けば、真っ先に出た謝罪の言葉。どうやら癖になっているらしく、慌てて訂正の言葉を続けた。

那月君は、そんなわたしを見つめて、満足気に微笑む。

ゆっくりと伸びてきた手が、わたしの頰に重なった。

ひんやりと、とても冷たい。


「もっと甘えてください……これから、ごめんなさいは禁止ですからね」


那月君に見つめられると、ドキドキしてしまって、なにも考えられなくなる。