【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



よかった。忘れてくるなんて、間抜けだな、私……。


「凄く助かった……ありがとう」


お礼を言うと、那月君はにっこりと微笑んでくれた。

那月君の笑顔一つで、今日の疲れや重たい気持ちが吹き飛んでいく。

今日はこれから用事とか、あるのかな?明日出張って言ってたから、もうすぐに帰ってしまう?


「よかったら、コーヒーでも飲んでいかない?」


まだ離れたくなくて、一緒にいたくて、我儘なことを言ってしまった。

たったの二日なのに、明日から会えないかと思うと、別れるのが名残惜しすぎて。

ダメ、かな……?

じっと那月君を見つめると、なぜか凄く驚いている。


「え?……でも、いいんですか?」


どうやら、もう一押ししたら止まってくれる予感がしたので、私は大きく首を縦に振った。


「もちろん」


那月君がいいなら、いつまででもいてほしい……。なんて、それは欲張りすぎる。


「それじゃあ……お言葉に甘えて、お邪魔させてもらいます」


やった。

まだ那月君と一緒にいられると思うだけで、ガッツポーズを決めてしまいそうになった。資料を忘れた朝の私を褒めてあげたいくらい……って、それはダメ。これからは気をつけないと。