【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。




『俺、明日出張なので、今日持って行ってもいけますか?』

「今日は……夜の9時くらいじゃないと家にいないんだけど、大丈夫かな?」

『……お食事会って、そんなに遅くまであるんですか?』


突然、電話越しでもわかるくらいに、那月君の声のトーンが下がった。


「え?う、うん」


少し不思議に思いながらも、返事を返す。


『そうですか……すみません変なこと聞いて。わかりました、なら9時以降に——』

「百合香ちゃん!」


……左吾郎さん?

那月君の声を遮るように、背後から左吾郎さんの声が聞こえた。

わざわざ呼びに来たなんて、何かあったのかな?


「ごめん那月君、呼ばれてるから行くね。ごめんなさい」


名残惜しいけれど、那月君にそう告げて、電話を終えることにした。

もう少し、話したかったな。

でも、今日の夜会えるからっ……。


『……先輩』

「ん?どうしたの?」

『……いえ、それじゃあまた夜にお伺いします』

「ありがとう」


浮き足立つ心のまま、私は電話を切った。

早く夜にならないかな……。って、別に帰りたいわけじゃなくて、家族との時間も、大切にしなきゃ。


「……あっ」


左吾郎さんに呼ばれていたんだった……!