【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。




月曜日に出社してからコピーし直してもいいのだけれど、前日に確認しておきたくて持って帰ってきたものだ。


「ごめんなさい、出来れば明日確認したい資料だから、那月君のお家に取りに行ってもいいかな?」

『なら、俺が届けに行きますよ』

「そ、それは悪いから、私が——」

『悪いとか、思わなくていいんです。俺が車で行く方が絶対早いんで、行かせてください』


優しい声色で話す那月君に、申し訳なくなりながらも、その優しさに惚れ惚れとしてしまう自分がいた。

家まで、近い距離ではないのに。優しいな。


「ありがとうございます……お願いします」

『先輩、敬語』

「あ、ありがとう」

『どういたしまして。先輩は、俺に頼ることにもっと慣れてください』


頼る、だなんて……もう充分、頼ってるよ。

こんな風に、家族以外と気軽に会話できるのだって、那月君くらい。

さっきはつい間違えてしまったけど、すっかり敬語もとれて、素の状態を晒しているのだから。

私にとっては、奇跡みたいなことだ。ほんとうに。


「ありがとう」


私がこんな風にいられるのも、那月君のおかげ。

那月君が、全部受け止めてくれるとわかっているから……なんだと思う。