【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。




「先輩?どうかしました?」

「な、なんでもありません」

「そうですか?ならいいんですけど。どうぞ、乗ってください」


助手席のドアを開け、入るように促してくれる那月君。
いつもスマートにエスコートしてくれて、いつも紳士的な人だと思わされる。完璧すぎて、私みたいな女が彼女でいることが、申し訳なくなってくるくらい。


「ありがとう……」

「いえ、安全運転でいきますね」


冗談混じりにそんなことを言って、運転席に乗り込む那月君。

先ほどまで繋いでいた大きな手でハンドブレーキを下げて、流れるような慣れた手つきでギアを変える。その一連の動作さえかっこよくて、見逃したくなくて、私は気にしていないふりを装いながらチラチラと視線だけを向けた。

な、なんだか私、挙動不審みたい……?み、見るのはやめよう。


「先輩の家の住所、聞いてもいいですか?」

「あ、は、はい」


私が告げた住所をナビに入力し、那月君はアクセルを踏んだ。



「あの、先輩」


窓の外を見ながらぼうっとしていると、沈黙を破るように那月君が口を開いた。


「な、なんですか?」


突然話しかけられ、ビクッと反応してしまう。今の、不自然に思われていないだろうか……。


「‪今週の日曜日‬って、予定ありますか?」



日曜日?今日は木曜日だから、明後日か。

予定は……なかったはずだ。