そっか……那月君には、まだ言ってなかった。
那月くんは、私の初めての恋人が自分だって知らない。だから、私にはそういう経験もあると思っているのかな?
こういうのって、ちゃんと言った方がいい?それとも、言ったら幻滅されてしまう?
何時ものように、ぐるぐると悩んでいると、那月君が先に口を開いた。困ったように微笑む那月君は、どこか余裕がなさそうに見える。
「ごめんなさい。こんなことを言うの失礼ですよね。先輩が俺の家にいると思ったら浮かれちゃって……緊張してるのは俺の方です」
那月君が、緊張?
そんな風には、全く見えないのに……!
そう思ったけれど、口には出さずに留めておこう。意外な一面を、またひとつ見ることができた。
お風呂が湧いたのだろうか、鳴り響く機械音が、束の間の沈黙を破ってくれた。
「浴室、こっちです」
立ち上がって、案内されるままについて行く。
「俺の服幾つか置いてるんで、使ってください。すみません、俺のものしかなくて……」
「ううん、ありがとう」
「それじゃあ、ゆっくり浸かってくださいね」
扉を閉めていなくなった那月君。私はひとりきりになり、「はぁ……」と息を吐いた。

