【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



恥ずかしい……。

穴があったら入りたいとは、まさに今の私に相応わしい言葉。

那月君に、変に思われただろうか?

恐る恐る那月君の顔を見れば、視線がばちりとぶつかった。驚いて逸らそうとしたけど、それより先に那月くんが笑みを浮かべる。


「何もしませんから」

「……え?」


何もって……。

那月君の手が伸びてきて、優しく抱きしめられた。


「今日お誘いしたのは、先輩と一緒にいたかったからです。そんなに身構えなくても、大丈夫ですよ」


その言葉に、こわばっていた身体の力がすっと抜けていくのを感じた。

よかった……。流石に今日そのままっていうのは、私の心臓が持たなかった。那月くんには申し訳ないけど、ほっとしてしまった。。

こっそりと、安堵の息を吐く。


「……でも」


わざとらしく、息を吹きかけるように耳元で囁いた那月君。

そのまま、軽くリップ音が鳴るようなキスをされた。


「これくらいは許してくださいね」


にやりと、悪戯っ子のように笑う那月君に、胸が高鳴って仕方ない。

不意打ちは、卑怯だ。


「けど、少し意外でした」

「意外?」

「先輩って、結構恋愛経験が豊富な人だと思っていたので……緊張とかしてくれて、嬉しいです」


ギクリ、と、体からそんな効果音が鳴った気がした。