「まずは、ご飯食べにいきましょう」

「は、はい」


乗車して、走り出した車。

那月君の食生活が心配だからよかったら夜ご飯作らせてもらうんだけど……おせっかいかな?

信号が止まって、車内が静かになる。


「何か食べたいものありますか?」

「うーん、私はなんでも好きです」


そう答えた私を、那月くんはなぜかじっと見つめてきた。


「先輩、前から思ってたんですけど……」


な、なんだろう?


「二人きりの時は、敬語はなしにしてください」

「えっ」


突然の提案に、困惑してしまった。

敬語はなしって……そ、そんな突然言われても。


「えっと……は、はい。じゃなくて、うん」


タメ口って、慣れない……。

社内でも、部下や後輩には敬語を使わない人は多いけど、私は誰に対しても敬語を使っていた。
癖というか、タメ口の方が難しかったから。

那月くんは、私の返事に満足げに微笑んだ。


「素直ですね」


す、素直って、那月くんが言わせたんじゃ……。

なんだか、子供扱いされているみたい……。


「それじゃあ、知り合いが経営してるレストランがあるので、そこ行きましょうか」

「は……う、うん」

「ははっ、頑張ってください」


複雑な気持ちだけど、那月くんが嬉しそうだからなんだかどうでもよくなった。

なんだろう……すっごく、心地いいな。

つい昨日までは、那月君といると気を張って、常に緊張していたから……自然でいられる今はとても居心地がよかった。

那月君が連れてきてくれたのは、女の子が好きそうなお洒落なレストラン。

本格的なイタリアンの料理が出てくるのかと思ったら、どちらかというと和風の料理がテーブルに並んだ。


「わぁっ、美味しそう」


見た目も素敵な料理を前に、ついつい頰が緩んでしまう。和食が好きなこともあって、気持ちが高ぶる。そんな私を見ながら、那月君が笑った。


「先輩って、無邪気ですよね」

「え?う、うそ」

「目が輝いてます。そんなに喜んでもらえて、嬉しいです」


く、食い意地張ってるとでも思われてしまったかな……?

恥ずかしくて、熱い頰を手で覆った。