【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



那月君がそんな野蛮なことをするはずないのに、どうしてあんな冗談を言ったんだろう?

それに、後藤君は私と那月君が付き合っていることを、知っているみたいだった。

社内でも有名な那月君との付き合いだから、噂は瞬く間に広まったし、きっと殆どの人に知られているのだろう。

けど、あの言い方はまるで……那月君から直接聞いたみたいな言い方。


運動不足解消のため、極力エレベーターは使わないようにしていて、階段でエントランスまで降りる。

手摺りに手を添えながら、ぼうっと、那月君のことを考えていた。


そういえば考えたことがなかったけど、那月君は私と付き合っていることを、他の人に話したりしているのかな?

あんまり良い噂のない私だけど……那月君は、気にしていないのかな?



ダメだ。

那月君のこと考えると、会いたくなってしまう。


脳裏に浮かぶ笑顔に、胸がぎゅっと苦しくなった。

苦しくて、切なくて、温かい。

早く、日曜日にならないかな……。

土曜日なんて要らないから、‪明日‬が日曜日に代わればいいのに。





‪金曜日の夜は好きだ。‬

もちろん、一週間の仕事が終わって、明日から休みが待っているという子供みたいな理由から。

大人になったって、休日は嬉しい。
でも最近、寂しいと思い始めたのは……きっと、那月君のせい。

毎日でも会いたいだなんて欲張りな気持ち、生まれて初めて知った。