【side 桐生】


那月さんが出張に行ってから、二週間。

この一ヶ月でできる限り百合花さんを俺に振り向かせようとしたけど、これがまあなかなか手強い。
覚悟はしていたけど、頑張って甘いセリフを言ってもスルーされるから、こっぱずかしい思いをしているだけの状態が続いていた。

俺も仕事が立て込んでいて百合花さんに絡む時間もあんまり作れなかったし、まず百合花さんは業務中に話すのを嫌がるから話しかける隙もなかった。
世間話くらいみんなしてるのに、生真面目すぎると思う。……ま、そこが百合花さんのいいところだけど。

こんな人、今の時代いないと思う。
そう思うと、ますます欲しくなった。

珍しく残業がない日、今日こそはと思い百合花さんを食事に誘った。
断られるのはわかっていたから、事前に考えていた言い訳を口にするとすぐに頷いてくれた。

お人好しだから、相談があると言われれば断れないんだろう。すぐに騙されそうで心配だ。実際、俺に騙されてるようなもんだし。


「この前百合花さんに視察同行してもらったおかげでリサーチもできたので、先方ともすんなり話がまとまりました」


仕事の話と言った手前、最初の一時間くらいはあれこれと近況を話した。