【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。


「え、俺と食事に行くのは嫌ですか?」


ショックを受けたように、眉の端を下げた桐生さん。
その表情に、罪悪感が溢れた。


「桐生さんがってわけじゃなくて……私と食事に行っても、楽しくないと思います」

「俺は先輩とふたりで、ゆっくり話してみたいですけど」


えっと……。
これは本当にお誘いを受けてる……?


「俺にとっては……チャンスの一ヶ月みたいなんで」

「チャンス?」


桐生くんのつぶやきに首をかしげると、「桐生!」と名前を呼ぶ大きな声が聞こえた。


「はい、行きます! ……またお誘いするので、考えておいてくださいね」


笑顔を残して、去っていった桐生さん。
ただの社交辞令だと思ってたのに……私と話してみたいなんて、物好きな人……。
桐生さんが、ますます変な人に思えてきた。

それにしても、食事に誘われても正直困ってしまう。
あんまり同僚の人との個人的な付き合いは避けたいと思っているし、私はお酒も飲めない。

基本的に、仕事の付き合いがあっても飲み会に顔を出すことは滅多にないから、桐生さんに誘われても断ると思う。
……まあ、そんなに深く考えることじゃないか。

桐生さんも会話の流れでいっただけだろうし、悩んでいる方が自意識過剰みたい。

この時はそう、軽く考えてしまっていた。