視察が終わってから、テーマパーク内で食事をして会社に戻った。
そのまま帰ろうかと思ったけど、参考としてレストランに行った。

今日は資料も集まったし、桐生さんの企画がうまくいくことを願いたい。

電車とタクシーを使って、会社に戻った。


「ねえ百合花さん、連絡先交換しませんか?」


車から降りて、会社に向かって歩いていると、桐生さんがそんなことを言ってきた。


「え?社用のメールが……」

「勤務時間外に聞きたいことがあった場合に、連絡を取りたいんですけど……ダメですか?」


確かに、社用のメールだったら会社にいるときにしかチェックしないし、緊急の連絡先はあった方がいいのかもしれない。

聞きたいことがあるなら、社内で聞いてくれたらいいと思うし、あんまり個人的に連絡先を交換するべきではないと思うけど……。


「いいですよ」


異動してきたばかりで、わからないことのほうが多いだろうから、私でよかったら相談に乗りたい。


「ありがとうございます」


自分のSNSを開いて、桐生さんに見せる。


「隙は見せないくせに、ガードは緩いですね」

「え?」

「何もありません」


にっこりと微笑んでいる桐生さんに、少し不信感を抱いた。
桐生さんって、いつも何考えてるかわからないというか……。

さっき、桐生さんの話を聞いて、少しだけ本当の彼が見えた気がしたけど……まだまだ得体の知れない人物だ。

連絡先を交換して、再び歩き出した時、外から社内のロビーが見えた。
ソファに座っている那月くんの姿が目に留まる。


「あっ……」


嬉しくて、つい声が漏れてしまった。
最近、偶然会える確率が高い気がする。

って、いけないいけない……!桐生さんが隣にいることを思い出して、慌てて目をそらして平静を装った。


「あー、あの人だったんですね」


ぎくっと、体からそんな効果音が鳴った気がした。