私も、もう少し柔らかい話し方ができれば……。
あんなふうに敬語をとって話せるのは、仕事仲間って感じがして憧れる。
なんて、二十八のアラサーが、何を思っているんだろう。
「……あれ?花京院さん?」
私宛の声が聞こえて、慌てて視線を後藤君へ向けた。
私がいたことに気付いたのだろうか、女の子に手を振って、こっちへ来てくれた。
「すみませんわざわざ来ていただいて……!もしかして、この前の資料ですか?」
「はい。まとめたので、お渡ししておきます」
持っていたデータを後藤君に渡すと、「ありがとうございます」と軽く頭を下げられた。
「花京院さん、今日はもう帰りですか?」
「はい」
「そうですか。昨日残業大変だったみたいですね……今日はゆっくり休んでくださいね」
「って、俺おせっかいですよね!すみません!」と、頭を下げる後藤君に首を振る。もちろん、横に。
心配してくれるのは有難い。
でも、後藤君の方こそ、昨日も残業していたのに……。
「今日も遅いんですか?」
「え、俺ですか?ちょっと外注の物件に手違いがあったみたいで……残業確定です、あはは」
恥ずかしそうに頭を掻きながら苦笑いする後藤君の表情に、疲れが見えた。
後藤君も、那月君と同い年で、私の二つ下に当たる。
設計に来てから日が浅いのに、毎日頑張ってるなぁと感心していた。
お腹空いてるって言ってたし、缶コーヒーくらい差し入れに持ってくれば良かった……あ。
「後藤君、よかったらこれ、食べて下さい」
「……え?」
「さっき会話が聞こえてしまって。私、お昼食べなかったのでどうぞ。人が作ったものが、嫌じゃなければですけど……」
食欲が沸かなくて、食べずに置いていたお弁当を渡した。
……渡した後で、自分の過ちに気付く。
いくらお腹が空いてるって言っても、手作りのお弁当渡すなんて、有り難迷惑すぎる……!

