悲しいし、寂しい。


私、ゆっくり仕事をこなす人を、低脳だなんて思っていない。

付き合ってる人はひとりしかいないし、那月くんが人生で初めての恋人なのに。

社長の愛人なわけがないし、どうしてこんな嘘ばかりが広まるんだろう。

こんな噂話を楽しむのは学生までだと思っていたのに……社会人になっても、陰口を囁かれるなんて。


……そんなこと、嘆いても仕方ない。


お弁当を食べる気にもなれなくて、私はオフィスに戻った。

落ち込んでいてもどうにもならない……ぱぱっと仕事を終わらせて、帰ろう。午後を乗り切れば、休日が私を待っている。

那月君との約束があるんだ。頑張れ、私……!

那月君の優しい笑顔が脳裏に浮かんで、それだけで、先程の嫌な出来事がかすれた。

昨日後藤君から預かった資料も確認して返さないと。

キーボードを叩き、残りの仕事を減らしていく。

全て片付いた時には、定時の三十分前だった。
最終のチェックも済ませ、「ふぅ……」と誰にも気付かれないほど小さく息を吐く。

うん、終わり。

デスク周りを片付けて、後藤君に資料を渡してから帰ろう。

ふふっ、仕事が終わった後って爽快……。

開放感に、伸びをしたいのを我慢して、いつもの無表情をキープした。



定時に帰れるのは、久しぶりな気がする。

一応職場内では年々後輩が増えている立場であり、指導係として二、三人の社員さんについている。

けれど、新入社員と言ってももう入社して半月以上が経つ今、教えることも随分と減ってきた。今ではひとりで案件を持つ子も出てきて、嬉しい限り。