こんな噂、今に始まったことではない。
私の根拠のない悪い噂は、この会社には山ほどある。
愛想が悪くてにこりとも笑わず、常に仏頂面な私が部署内で嫌われているのは、とうの昔に気付いていた。
いや、部署だけには留まらず、きっと社内の人間全てから、好かれていないんじゃないかと思う。
こうして自分の陰口に遭遇することも多々あり、さすがに慣れてすらき始めた。
『仕事が遅い人間を低能だと馬鹿にしている』とか、『金持ちの恋人が何人もいる』だとか、他にも……すべて悪意のある噂ばかり。
そして、一番良く言われているのは、『社長の愛人』。
一度、社長とプライベートで食事をしていたのを見られたらしく、今でもその噂を信じている人は多い。
もちろん、真っ赤な嘘。
那月君と付き合い始めてからは、『新人キラー』などという噂まで広まった。
仕方ない。私がこんな性格だから、格好の的にされるんだ。自分でも、愛想の悪さと付き合いの悪さはとうの昔に自覚している。
屋上に出て、誰もいないことを確認した。こんな冬空の下、冷たい風に当たりながらお昼を食べたいと思う人はいないようだ。
じわり、と、視界が滲む。
私は一体いつまで、ありもしない噂を囁かれ続けないといけないんだろう。
頬を伝う涙が冷たくて、袖で拭った。
慣れた……なんて、ただ強がりだ。