【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。




「冗談……ってわけじゃ、なさそうですよね」


ぼそりとそう呟いた那月くんの表情は、明らかに動揺していた。

那月くんのこんな間の抜けた顔、初めて見る。
そこまで驚くこと?と、不思議に思ってしまうほど。

こんな焦っている那月くんは見たことがないと、また新記録を更新してしまった。


「……本当ですか?」


信じられないとでも言いたげな瞳で私を見る那月くんに、恥ずかしくて視線を逸らす。

やっぱり、幻滅されたかもしれない……。


「す、すみません、疑ってるわけではなくて……!」


私の反応に何か勘違いしたのか、瞬きを繰り返しながら「えっと……」と言葉を選んでいる那月くん。

口元を手で押さえ、もう片方の手で髪をかきあげた。


「信じられない……先輩みたいな人が……」


独り言のようにつぶやかれた言葉に、ずきりと胸が痛んだ。表情に出るほどだったのか、那月くんが私を見て焦ったように視線を揺らした。


「違います、先輩、悪い意味ではなくて……」

「い、いいの、そういう反応が返ってくるって、覚悟してたから」


気を遣わせないようにと笑顔を浮かべたつもりだったけど、こぼれたのは乾いた声。