【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



「……いや」


頭上から聞こえた声に、恐る恐る顔をあげる。

視界に映ったのは、那月くんの辛そうな表情だった。


「本当にすみません……」


それは、予想外の反応だった。

那月くんの悔恨の念に苛まれているような苦痛の表情に、驚いてしまう。
どうして、那月くんが謝るの?


「俺、最低です。先輩のこと疑って、一瞬でも、噂に流されてしまいそうになった……」


ここは普通、「どうしてもっと早く話してくれなかったんだ」とか……私を責める言葉が、返ってくると思っていたのに。


「信じてあげられなくて、すみません……」

「ううん、そんなこと気にしないで。那月くんは悪くないから」


もう……その言葉で十分。やっぱり、那月くんは優しすぎる。


「私はただでさえ悪い噂が多いみたいだから、誤解されて当然というか……先に言っておくべきだったよね」


今回のことは、どう考えても私に非があるのに、責任を感じている那月くんが愛おしくなった。

幻滅されなかったことに、心底安堵した。


「あの、言い訳になってしまうんですけど」


言い訳?

言いかけた那月くんの顔を、じっと見つめる。


「些細なことで不安になってしまうくらい、先輩が好きなんです」


まっすぐな告白に、ごくりと喉が波打った。