また、驚いた反応が返ってきた。
「私が社長の愛人なんていう噂、耳にしたことあるかな?」
そう聞いた私に、那月くんは一瞬動揺したように視線を揺らした。
「あります」
正直に答えてくれた那月くんに、苦笑いを返す。
知っているとは思っていたけど……改めて確信すると、気持ちがずしんと重くなった。今まで那月くんはどんな気持ちでいただろうと思うと、申し訳ない気持ちも湧き上がってくる。
「全部、真っ赤な嘘なの。一度ふたりで食事しているところを社内の人に見られてしまって、その人が吹聴したんだと思う。那月くんにも、まだ言う勇気がなかったの」
じっと話を聞いてくれる那月くんに、私は相変わらずの苦笑いしか向けられない。
どんな顔をして話せばいいのか、わからなかったから。
「正直、このことを公表したら、私が社長の義理の娘だから入社できたって思われるんじゃないかと思って……もちろん、入社した頃にはまだ話は決まっていなかったし、私の母と社長が出会ったのも入社後なんだけどね」
正直、噂を耳にするのは苦痛だったけれど、耐えられないものではなかった。
私は弱い人間だから、隠れて泣いたことは何度もあったけど……それでも、噂を否定する行動をしなかったのは、人からの印象を気にしていなかったからだと思う。
誰に悪く言われても、耐えられた。それでも……那月くんだけには、誤解されたくないと思った。
那月くんの反応が怖くて、視線を下げる。
「話すのが怖くて、ずっと隠していてごめんなさい」
信じて、もらいたい。
那月くんだけには……。

