どうしよう。どうしよう。

何か言いたいのに、声が出ない。顔が熱すぎて、俯いた顔を上げられない。

黙っていたら、また那月君に誤解されてしまう……でも、お世辞を言われ慣れていないわたしの口からは、上手い返事のひとつも出てきてはくれなかった。


「す、すみません。なんか気持ち悪いこと、言ってしまって」


案の定、那月君は申し訳なさそうにわたしから目を逸らしてしまった。

私の、大馬鹿もの……。



「気分を悪くさせてしまったらごめんなさい。……それじゃあ、俺帰ります。日曜日、映画が15時からなんで、14時にここへ迎えに来ますね。おやすみなさい」

「はい。送っていただいて、ありがとうございました……」

「いえ。少しでも長く先輩といることができて、嬉しかったです。明日俺、一日会社いないので、また明々後日」


車から降りて、ぺこりと頭を下げる。那月君も笑顔で会釈して、車を走らせた。


完全に車が見えなくなって、肩の力を抜く。はぁぁと、大きく息を吐き出した。

き、緊張した……。

心臓はまだドキドキと煩くて、落ち着かない。胸を撫で下ろし、落ち着くまでその場でじっとしていた。

また素っ気ない態度をとってしまったけど、デートの約束ができた……。
まさかの展開に、改めて嬉しい気持ちが溢れ出す。

当日は、とびっきりオシャレをして行こう。

今度こそちゃんと、愛想よく、大人な女を演じられますように……!

スカートの裾をぎゅっと握って、わたしは決心を心の中で唱えた。



……なんて、頬にキスくらいで照れている時点で、大人の女性とは程遠いな……。