過ぎて欲しくない時間ほど、早く感じるのはどうしてなんだろう。
そんな考えても仕方ないことを思いながら、ため息が溢れた。

今日は逐一、無意識に時計を確認してしまう。あとちょうど三十分で定時になる時間になり、緊張のあまり心臓の鼓動が速くなってきた。

那月くんに、上手く話せるだろうか……。

ちゃんと言葉を整理してからの方がいいかもしれない。那月くん、少し遅れて戻ってきてくれないかな。

そう思った時、オフィスのドアが開いて、那月くんが入ってきた。

……なんてタイミング。


「戻りました」

「おお、直帰じゃなかったのか?」

「口頭で報告をしたかったので。K社との企画取れました」


那月くんの報告に、部長が上機嫌になっている。
あの歳で大口の営業を幾つも取って、営業部不動のエースなんて言われて今じゃ営業企画部でも頭1つ抜きん出た逸材。改めて凄いなと尊敬する。

わたしも負けないように頑張ろうと、いつもなら思えるのに。今日はなんだか、那月くんとの距離が離れていくような、そんな気分になった。


部長との話が終わったのか、那月くんが私の方に近づいてきた。
気にしないように、打ち込み作業を続けるわたし。でも、視界に入る那月くんが気になって、本当は何を打っているのかもわかっていない。

那月くんは何も言わずに通り過ぎて行って、自分の部署に戻って行った。

周りに人もいるから、話しかけられるとも思っていなかったけど……少しだけショックを受けてしまう。

……よし。落ちてないで、早く終わらせようっ。

そう思った時、デスクの上に置いているスマホが震えた。

画面を見ると、「那月くん」の文字。