「例の彼とはどうなったの?」

「例の彼って?」

「前に電話来てた、あの彼」

「あー、神宮寺くん?」


私と渚は駅ビルに隣接しているファッションビルのカフェで、1ピース1000円のそれはそれは高価なケーキを食べていた。

旬の栗とかぼちゃをたっぷり練り込んだ生地に、かぼちゃのピューレを挟んで、さらには安納芋がゴロゴロ乗っかっていて、さらにさらに上から栗のペーストがどっさり塗られている。

どこからどう見ても甘くて重いスイーツなのだが、日頃仕事で疲れをためている私たちにはご褒美そのものだ。


それをつつきながら、渚が「神宮寺ってすごい名前ねぇ」と笑っていた。


「いいとこのお坊ちゃまとか?」

「ううん、親は普通の会社員って言ってたはず」

「じゃあものすごーーーくイケメンとか?」

「ううん、ちっとも。最初は特徴ないなーと思ってたけど、最近は見慣れてきた。ランクでいえば中の上かなー。薄い顔が好きな人はストライク入るかもね」

「あんた目鼻立ちハッキリした顔が好きだもんね」


傍から聞いたら悪口にとらえかねない話を淡々と重ねながら、歴代の彼氏(とは言っても人数は片手で足りるくらい)の顔を思い浮かべた。
偶然かもしれないけど、どいつもこいつも顔が濃かった。


「なんだー。じゃあ、あれきり会ったりはしてないのかぁ」


つまらなそうに口を尖らせた渚の言葉に、一瞬フォークを動かす手を止めた。フォークの先にはとっても甘そうな安納芋。
それを見つめた状態で、コホン、と咳払いした。


「いや、あれからも2人で食事はしたよ?」

「………………え!なにそれ本当!?いい感じじゃん」

「まさか。そういうのじゃないんだもの」


言われてみれば、彼女に神宮寺くんとのことを詳しく説明するのを忘れていた。
かいつまんで、これまでの経緯を話すことにした。