「あ…真ならすぐ来ると―…」
駿がぱっと振り向いて私たちが歩いてきた道を見つめる。
ちょうどいいタイミングだったのかそこからは走って追いかけてくる男の子がいて。
「お、栞!きてたんだ」
「うん。ちょっと早くなっちゃって…。あ、こちらは…」
「あぁ、ちょっとまってな。心」
栞、と呼ぶその女の人から少し離れて駿の後ろに立っていた私の名前を呼ぶ。
私はただ返事をせず、駿の背中から少し顔を覗かせる。
それを見たそいつはニッコリと微笑んで言葉を続けた。
「この人、俺の彼女。栞。仲良くしてやってな」
“栞”
そう呼ばれたその名前にぱっと顔をあげる。
「しお…り、」
それは私がずっと、ずっと望んでいたもので。
私には一生なれない、手の届かない…ものだった。

