けれどいつだって現実は残酷。
いつまでも側に…そんな願いが叶うはずがなかったのだ。
月日が経ち、もうすぐ郁が小学校に上がるという頃、ヨーロッパで活動していた父と母が揃って帰国した。
どうして…こんな時に。
嫌な予感しかしない。
父と母にとって郁は自慢の息子かもしれない。
いや、実際そうなのだ。
けれど仕事を休んでまで小学校の入学式に参列するような両親ではない。
何かしら理由があるのだ。
わざわざ二人揃って帰って来なければならない理由が。
家政婦さんから知らせを受けた私はランドセルをからい一目散で家に帰った。
家に着くと…
『おかえりなさいませ。』
いつものように出迎えてくれる家政婦さん。
玄関には男物のくつと女性のヒール、そして郁のくつがあった。
私は出迎えてくれた家政婦さんに視線を戻した。
『父と母は…?』
『皆さん、リビングにいらっしゃいますよ。』
嫌な胸騒ぎがしながらも、私はリビングへと向かった。
ガチャー・・・
扉が開いたというのに父と母はこちらを見ようとはしなかった。
まるで扉が開いた事にも気づかないかのように。
『お姉ちゃん!おかえりなさい!』
郁だけが私を見てくれた。
『…ただいま。何…してるんですか?』
父と母の間に郁を座らせ、テーブルにはたくさんのパンフレットが広げられていた。
どれも外国の子どもが写っているものばかり。
私にですら分かる。これは外国の小学校のパンフレットなのだと。
『お前には関係ない。自分の部屋に戻っていなさい。』
それは久々に聞いた父の声だった。
『郁を…外国の小学校に通わせるんですか…?』
『……。』
『やっぱり…。それだけは嫌です!』
『凛…』
『郁はまだ小さいんです!お父さんお母さんだってずっと郁の側にいてくれるわけじゃないんでしょう!?』
『凛!』
『音楽の才能があるからって…外国じゃなくても…』
外国に郁を連れて行かれたら、簡単には会えなくなってしまう。
まだ小学生の私には二度と会えなくなってしまうような恐怖を感じていた。
けれど…
『凛…自分に才能がないからって弟の未来を邪魔するのはやめなさい。』
母から言われた言葉に何も言えなくなってしまった。
『才能がないからって僻んじゃダメ、あなたはいい子だもの。お母さんの言いたい事分かるでしょう?』
違う。僻んでいるんじゃない。ただ、郁が心配なだけ。
一人ぼっちの寂しさは私が一番知っている。
私が郁を守ってあげなきゃいけないのに…
母の言葉はまるでナイフのように胸に突き刺さり、うまく言葉が出ない。
ポタポタと涙が溢れてくるだけだった。

