帰り道、角を曲がり大通りに出たとき信号は赤へと変わった。
お腹がすき、急ぐ気持ちはあったが、近くの歩道橋は使わず、信号が青になるのを郁と二人で待った。
『ねぇ、郁?』
『なあに?』
『結局、飛行機はいつに変更してもらったの?』
『明日だよ。あの人達は仕事があるから先に帰るって。』
『そっか…怒られなかった?』
『僕を誰だと思ってるの?』
郁は可愛らしくウィンクした。
六歳児ながら、よく自分の武器を知っているらしい。
『凄い弟…』
『え?本当?やったー!』
良い意味で言ったわけではないけれど、郁が嬉しそうだからまぁいいや。
それよりも……
『ねぇ、郁?』
『今度はなぁに?』
言わなきゃいけない事がある。
言葉にしてちゃんと謝らなければいけない事。
私は郁と向き合った。
『あのね…』
“生まれてこなきゃよかった”
そんな事…思ってないよって。
ちゃんとちゃんと伝えなきゃ。
でも…………
郁の大きな瞳は私達の体よりはるかに大きなトラックを映していた。
とっさに振り返ろうとするも、小さな手は私を遠くへドンッと突き飛ばし…
気づけばトラックの下敷きになっていた。
郁…郁………
車の音や悲鳴ばかりがうるさくて…
郁の声が全く聞こえない。
姿も見えない。
どこに…いるの……?
どうして私はこんなところにいるの…?
薄れゆく意識の中、必死で郁の名前を呼びつづけた。

