「おうサク、来てたのか。


泉川先生、こいつは大学の同級生の橋本です。


サク、こちらは泉川葵先生」


「・・・どうも」


「・・・はじめまして」


不本意だったけど、いちお会釈しておいた。


葵も、まさかの『はじめまして』かよ。


「サッカー体験レッスン、毎年好評なんだってよ。


今年も集まるといいな」


「亮太からもプッシュ頼むよ」


「泉川先生、チラシ受け取ってくれた?


配布物はあのロッカーにお願い」


「はい、わかりました」


「じゃあ、サクまたな」


「ああ、よろしくな」


先生がパラパラ戻ってきた職員室に向かって、


「ありがとうございました、失礼します」


と声をかけた。


職員室を出る前に、葵の姿を目で追った。


葵はチラッと俺を見て、目が合った瞬間にそらした。


扉を閉め、校舎を出て、ちょうど2時間目と3時間目の間の中休みなのか、校庭はたくさんの子どもたちでいっぱいだった。


思いっきり遊ぶ子どもたちを、少し眺めていた。


体験レッスンにたくさん集まるといいよな、そしたらこの校庭でどんなメニューをやろう、って考えた。


ふと気になって、さっきまでいた職員室の窓を見た。


窓から外を見ていたのは、葵だった。


その姿を見たとき、高校時代がフラッシュバックしてきたかと思った。


葵はよく、部活をしている俺を、あんな風に見ていてくれた。


ただ、一緒に帰るだけのために。


そして、手をつなぎながら歩いて、高台の公園に寄って、他愛ない話をして、キスをした。


葵、俺たちどうして、こんな風になったんだよ。


どこで間違えたんだよ。


あんなに好きだったのに。


職員室の葵も、俺を見ている気がした。


その時チャイムが鳴り、子どもたちは走って校舎へ向かい、葵は窓から離れていき、俺は現実に引き戻された。