けれど私はまだ、校舎を出ることができなかった。

・・・佐伯くんに、言われていたから。


『後夜祭の前、教室にいてほしい。』


夏休み明けの席替えの時、私の前の席になったのは佐伯くんだった。

告白されて、友達になってから、メールのやり取りはよくしていたが、同じクラスとは言え、学校で話す機会はなかった。

でも、佐伯くんと席が前後になってからは、よく話しかけてくれたりして、どんどん仲良くなっていた。


「ごめん!待たせた。」

「あっ、ううん。大丈夫。」

教室で話すようになってから、ちゃんと目を見て話せるようになって、この学校では茉胡と澄にいと同じくらいちゃんと話せるうちの一人になった。

部活の話とか、いつ試合だから見に来てとか、佐伯くんの話はどれも面白くて時間を忘れちゃうくらい話し込んでしまう。


「あのさ...」


佐伯くんが話し始めるのを待って、私は何もしゃべらないでいた。

すると佐伯くんは、ぽつりと、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声を出した。