「お前、タバコはやめとけ」
マスターに腕を掴まれる。
「仮にもシンガーだぞ?
酒は百歩譲った。タバコはやめろ」
マスターの本気の顔をみる。
私はその瞳を覗き込みながら、
手にそっと片手を置いて、丁寧にはがした。
「わかったわよ。」
拗(す)ねたような言い方になってしまったが、言い直すつもりもなかった。
しばらくマスターは怒ったような顔をしていたが、また作業に戻った。
ギィ。隣にアズが座る。
「アズ。お疲れ様」
私は含み笑いをしながら、
アズの髪を指で梳(す)いた。
「…なんだよ」
「本当に綺麗な御髪(みぐし)ね。
眼も、透き通った色で素敵。
眼はね、自分が見るだけでなくて、
自分自身をも映すのよ」
知らなかったでしょ?ときいても、
どーでもいい、と答えるアズの味気のなさが、また面白かった。