「じゃあもしよかったら、これから飲みに行きません?」
「え?仕事はいいの?」
「はい!急いでるわけじゃないんで、明日に回します!」
今まで創くんと二人では、飲みに行ったことがない。
今みたいに仕事関係で二人になることは多いけれど、仕事以外の、プライベートで会うことは一度もなかった。
それもいいかと思い、腕時計で時間を確認してみると、定時の五時半を過ぎていた。
この時間なら大体の居酒屋は営業してるだろう。
いいよ、と返事をしようと思った時、急に誰かに腕を掴まれた。
「悪いけど、こいつ俺と約束あるから」
「!?」
驚いて咄嗟に声が出ない。
掴まれている腕からその人物を辿っていって、さらに驚いた。
「月宮、さん……!?」
月宮さんは、私の腕を掴んだまま創くんのほうを見た。
「だから今日は無理」
創くんはぽかんと口を開けて、自分より背の高い月宮さんを見上げている。
今思えば、月宮さんと創くんは面識がないはずだ。きっと、誰だこの人、と思っているに違いない。
創くんが憧れている人なんだよと教えてあげたら、どんな反応をするだろう。
「おい、行くぞ」
ぐいっと腕を引かれて、足が一歩前に出る。
「え、ちょっと待ってよ、」
約束なんてしてない。
こんな無理やり、一体何の用があるっていうんだろう。
問いかける暇も与えてくれず、月宮さんはぐいぐいと引っ張ってくる。
これはきっと話を聞くまで帰してもらえないだろう。
「は、創くんごめん!飲みに行くのはまた今度!」
「え、あ、はいその、そちらの人は……」
「お疲れ様ー!」
会社の入り口を通り過ぎ、月宮さんが足を進めるままついて行く。
困惑顔の創くんは、とても不審に思ったことだろう。明日もう一回謝ろう。


