そして強く抱いたあと、優しく体から離していく。



涙で優くんの顔が見えないよ。
ちゃんと顔を見たいのに。



「…百合…今は答えられない。ごめん…」




優くんは下を向いてこう言った。
謝らないでよ。
あたしが勝手に気持ちを言っただけだよ。
優くんはあたしの望みを叶えてくれただけ。

この匂いに包まれたいという願いを叶えてくれただけじゃない。


だから謝らないで…。



「……いいの。私のワガママだもの。ごめんね」



涙をジャージで拭いて、首を横に振る。
すると優くんはあたしの手にあれを返した。




「百合…指輪…返すよ」



「…迷惑じゃない?あたしが指輪持ってること」



首を振って小さく笑ってくれる優くん。
そんな彼の笑顔にほっとする。




「迷惑なんかじゃ…ないよ」




「ありがとう…じゃあね」



リングを受け取ったあたしは、温もりが消えないうちに優くんから離れていった。


まだ優くんは人のモノだから…。
あたしから抱きしめることはできない。




廊下を歩くのをやめて、自分で自分をぎゅっと抱く。
あの匂いの中で…抱かれた。



欲望が芽生え出す。





あたしは…、





もう一度…




あなたに溺れる…。