「失礼します…」




低いトーンのボイス。




「あっ鈴木くんこっち!」


先生がこう叫び、彼を呼び寄せる。
やはり期待通り。
あなたが、やってきた。

近づく足音。
緊張が増して、手の動きが速くなる。



「鈴木じゃん!お前どうしたの?」



園田くんがこう言って、足音が止まった。



今しかない。
自分が変わらなきゃ何も始まらない。
だからきっかけは自分で作る。



勇気を振り絞って、言葉を並べていく。



「鈴木くんも先生に呼ばれたの?」




でも…あなたは冷たかった。



「は…?」



冷めきった言葉は、素直にあたしの心に突き刺さる。
あたしを嫌がるような目付きが、体を硬直させる。
しばらく時が止まった。

優くんは先生と何か話している。
だが今のあたしにはそんな声は届かない。


急に悲しくなる。
あたしは優くんの方を向いて、視線を送る。
優くんがこちらを向いた。


冷たくされても、あの目付きで睨まれても、どうしようもなく好きなの。


あたしは気づく。
そして記憶が蘇る。
ふわっと鼻に入ってくる匂いを。
この匂いは、あの香水の匂いに似ていた。


でもプレゼントしようとした香水はクローゼットの中に眠っているし…。
頭が混乱する。



答えが分からないまま、優くんは職員室から出て行った。



待って…待って。
あたしを置いて行かないで。



この匂いに抱きしめられたいの。
あなたに抱きしめて欲しいの。




無意識に、走り出していたあたし。



もう限界だよ…。




「鈴木くん!!」



ドアを開けて、あなたの背中に向けて名前を呼ぶ。
振り返る優くん。



でも見えてしまった…。彼女の存在を。




「あっ…何でもないの」




あの匂いに包まれるのはどうして広瀬さんなのだろう。
あたしじゃダメなのかな。




芽生える、愛。



優くんは、摘み取ってくれる?