再び、静かな時が訪れる。
草葉を踏む2人の足音だけが、森の中へ響いた。時々パキッと小枝の折れる音がする。


(どうしよう。話題がなくなってしまったわ……)


ただでさえ、思いを寄せる相手と一緒にいることで緊張しているのだ。気の利いた話題など、ライナが思いつくはずもない。


すると今度は、イルミスが口を開いた。


「他には?」

「……え?」

「他にはありませんか? 私に聞きたいことは」


話を振られて、ライナは困った。
楽しませるような話題はひとつもないが、イルミスに聞きたいことなら、山ほどある。
例えばーー。


ーー好きな人は、いますか。


「え、と、その……」


そんなことを聞く勇気もなく、ライナはしどろもどろになっていく。いつの間にか再び足が止まっていて、イルミスが向き合った状態で立っていた。碧い目が、急かすようにライナを見ている。


「す……」

「す?」


ぽろりと出た音を敏感に察知し、早く続きを言えとばかりに見つめられる。ライナは、目をぎゅっと瞑って、大きく息を吸った。


「す、好きな食べ物は、何ですかっ!」


距離感がまるで合っていないような大きな声で質問をしたことで、一瞬の静寂が訪れる。イルミスはしばし黙った後、口角を上げて告げた。


「……今は、キノコですね」


ライナの、体中の血液が逆流しそうになった。