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ライナはミレーヌの屋敷を出た後、夕食の準備をするためにセーラの店へと向かった。寝不足のため日差しは普段より眩しく感じ、多少足はふらついてはいるが、イルミスのためならば何ともないとさえ思う。何の変哲もないスープをそこまで欲してくれるならば、期待に応えたい。


「こんにちは」


戸を開けると、セーラと珍しく店内にいたダグラスが談笑しているところだった。ライナに気付くとセーラが驚きをすぐ笑顔に変える。


「あら、ライナじゃない!……噂をすれば、だね」

「噂? 私のことですか?」


夫婦の話題はライナだったことに対して首を傾げながら、いつも通り店の中へと進むライナに、セーラは嬉々として話しかけた。


「他に誰の話があるっていうの。昨日は王子様に無事会えた?」

「王子様?」


セーラの言っていることがさっぱり分からず、ライナはただ疑問符を浮かべるばかり。


「きらきらに着飾った騎士様が息を切らして店に入って来たときは何事かと思ったけれど……ああ本当に、あたしがもう少し若かったら!」

「ええっ?! い、イルミスさんがここにいらしたのですか?」

「イルミス様って言うのかい? 素敵な名前だねえ……ってそうじゃなくて! 昨日、ライナがうちに来ていないか尋ねられてさ」