「出てくれ」
「え?!」
振り返りもせずにそういう課長に、思わず大きな声が出てしまう。
出ていいの?私が出て大丈夫なんですか?
未だパソコンの画面から目を離そうとしない課長は、
「どうせ宅配かなんかだろう」
と吐き捨てて相変わらずパソコンをカタカタと言わせている。
しょうがない、出るか。家主がこう言ってるんだから、居候は従うしかない。
インターホンへと向かいながら、ちょうど磨き終わったシンクを一拭きして、モニターの通話を押し『はい、深山です』と大分違和感を感じながら告げる。
すると、聞こえてきた声は想像していた宅配便のお兄さんの声ではなかった。
『あなた、誰?』
これは確実に女の人の声だ。
え、あれ、どうして…?!こちらこそ、あなた誰?!
え、課長の彼女?!どうしよう。
再び訪れた修羅場の予感に、ひとり固まってしまっていると背後から伸びてきた手が開錠ボタンを押していた。

