どん底女と救世主。




「あのとき、あのふたりを見た瞬間、気持ち悪いって思っちゃったんです」


私と二人で選んだ部屋で、買ったソファの上で、絡み合う勝と希ちゃんを見て、込み上げたのは怒りではなかった。


希ちゃんに触れた手が、唇が汚らわしいとさえ思う。


「それまでの勝との思い出も好きな気持ちも全部吹き飛んで、触れられたくないって思ったんです。
薄情な女なんです、私」


裏切られた悲しみとか怒りとか、そんな気持ちを押しのけて『気持ち悪い』という感情が心を占めた。


仮にも同棲までしていた相手への感情が、気持ち悪いって…。


我ながら冷たいなと感じて落ち込んでいると、正面から低く落ち着いた声が聞こえた。


「そんな事ないだろ。気持ちはわかる」


その声に顔を上げると、ぐぐっとジョッキに残っていたビールを飲み干す課長の姿が目に映る。

私もそれに倣ってビールをあおいだ。


なんでこんなことまで深山課長に話してるんだろう。

お酒のせい、かな。