どん底女と救世主。




男の人の前で泣くなんて、私の中ではすごくレアなのに。
よりにも寄って、この人の前で泣くなんて。

今更ながら、恥ずかしさでまたも顔が熱くなってくるのを感じたとき、



「人の泣き顔は見慣れてる」


隣でおでんのこんにゃくを摘みながら、課長はしれっとそう言う。


うわ、さすが鬼上司。

泣き顔を見慣れるなんて、どれだけ人を泣かせてきたんだ。


「しかし冴島が泣くところは久しぶりに見たな」

「久しぶりって…。前に一度だけ泣いたの覚えてたんですか?」

「ああ。あれだけ厳しくしても泣かなかったやつが、ちょっと褒めただけで泣いたんだからな」


あれだけ厳しくしても、って…。
自覚あったんだ…。


どれだけ厳しくされても、仕事を積まれても、この人の前でだけは一切涙を流さなかったけど、たった一度だけ泣いたことがあった。


1年間一緒に居て、一度も褒めてくれなかった先輩から『よくやった』なんて言われたら泣きますよ。


ていうか、一年間『よくやった』の一言もなかったんだ。やっぱり厳しすぎる。