「深山課長」
「そうだ」
「深山課長」
「なんだ?」
「深山課長、深山課長、深山課長…」
「もしかして練習してるのか?」
自分の世界に没頭していたら、隣から声が聞こえたので何かと思った。
なんと、私がやたらと名前を呼ぶので返事を返していたみたいだ。
あれ、心の中で唱えてたつもりだったのに。
いつの間に声に出してたの、私…!
まずい、怒られる。そう、思ったのに。
ーーふっ。
と、深山課長は息を吹き出した。
笑った…。あの鬼上司が、笑った…。
大口の契約が取れて、同僚たちと喜んでいる姿は見たことがある。
取引先と話しているときだって、いつもの仏頂面じゃない。
主任の営業スマイルだって、近くで見たこともある。
でも、何だろう。
それとは明らかに違う、本当に可笑しそうな笑顔。
こんな柔らかい表情の深山主任は、あまり見たことがない。

