「自分の彼女が役職じゃなくて俺の名前を呼んでくれますように、とか?」
「えっ!」
先ほどまでの楽しそうな表情が、みるみるうちに青ざめる。
「だって!ゆっくりでいいって、昨日も言ってたじゃないですか…」
最後は消え入りそうな声で言う彼女は、すっかり下を向きモゴモゴとしてしまった。
未だ『課長』と呼ぶ彼女に対して、俺が『咲』と名前にシフトチェンジしたのは付き合い始めてすぐだった。
たまに癖で『冴島』と呼んでしまうこともあるが、基本は彼女の名前を呼んでいる。
まあ、別に無理して呼んだもらわなくてもいいが。
外でまで『課長』と呼ばれるとなんだか複雑だ。周りの目もなんとなく気になる。
部下を無理矢理連れ回してるパワハラ野郎とでも思われてるんじゃないか、俺は。

