どん底女と救世主。



今日の晩ごはんは、おでん。

寒くなってきてから、いつかは作りたいと思っていたメニューだ。


本当は前の日の夜から仕込んで出汁を具に染みさせたいところだけど、晩ごはんをおでんにしようと思い付いたのは夕方のスーパーで買い物をしていたときだったので、もう手遅れ。


少しでも染みさせたくて、無駄な抵抗とはわかっているけど大根に十字の切り込みを入れる。

牛スジがどうしても手に入らなくて、スーパーで安くなっていた練り物セットと大根、卵だけという具材だし、おでんというより、おでんもどきという感じだけど。

それでも、この温かいおでんで課長の気持ちを和らげることが出来れば。


おでんを食べるとホッとする。きっと深山課長だって…。

私はおでんの力を信じてる。というより、もう縋るものがおでんしかないのだけど。

レンジで大根を下茹でし、沸き立つ出汁の中に具材を入れると落し蓋替わりのアルミホイルを沈めて煮込む。


今日は金曜日だけど、接待も飲み会もないから真っ直ぐ帰ってくると言っていた課長の帰りを副菜を作りながら待った。


もし課長が帰って来なかったらどうしよう…。


そんな不安が頭をよぎったとき、玄関からガチャリと鍵を開ける音が聞こえた。