2年間も付き合っていた恋人と、可愛がっていたはずの後輩に裏切られた。
それだけで、充分どん底のはずなのに。
私の底は、まだまだ深いところにあるらしい。
***
「はあ…」
嫌なことを思い出している間に着いてしまった。
勤めているホテルの裏側、社員入り口の前で思わず深いため息を吐いてしまう。
帰りたい。このまま、回れ右して家に帰りたい。
あ、でももう帰る家もないんだった…。
「はあ…」
もう一度吐いたため息は、さっきよりもっと深くて。
どんな顔をして希ちゃんに会えばいいんだろう。
勝と会社で会うことはほとんどないけれど、希ちゃんとは同じ部署だ。
それも、デスクは斜め前。
気まず過ぎる。
まあ、被害者は私なんだから堂々としていよう。
そう気合いを入れて、自動ドアをくぐった。

