「熱下がってますか?」
 キッチンに立つ速水さんに私は聞く。
あーあ、結局帰らなかったことばれちゃったよって思いながら。

「うん、たぶん栄養ドリンクのおかげ。」
 そういう速水さんは確かに顔色がいい。
よかった、熱下がって。

「似合うじゃん。」

「え?」

「パ―カー。」

「あぁ…ありがとうございます。」
 大きいから、腕まくりしないと腕使えないけど。幽霊みたいになってる袖をぶんぶんと軽く振ってみせる。

「下が短パンだったら尚いいよね。」
 クスッと笑う速水さん。

なんだろう、こういう所に歳の差感じるよね。オヤジ臭いというか…

「残念ながらスカートですー。」
 まぁ面白いからいんだけど、私は笑う。


「みそ汁飲む?」

「作ったんですか?」

「うん。」
 病み上がりなのに…本当に大丈夫なのかな。
私は不安に思って彼のそばに寄った。

「うわぁおいしそう。」
 かき混ぜてる鍋から味噌のいい匂いが香ってる。

「市田が買ってきてくれた余りもん、全部使っちゃった。」

「飲んでみる?」
 速水さんは少量お玉についでくれる。

「ありがとうございます。」
 珍しく優しいな、速水さん。
看病のお礼ってこと?

私は差し出されたお玉を取ろうとした、

が、

「あっ!」

「うま。」
 私が飲むはずだったそれを、私の手もそのままに、彼の口元に一緒に運んで飲みきってしまう。

「…残念でした。」
 彼は口元を緩めた。それこそあざとい人ならべーって舌を出す具合に。

「もう。」
 さっきの優しいって言葉撤回だ。
お構いなしに、彼は再び鍋をかき混ぜ始めてる。

「おでこ貸してください。」

「は?」

「おでこです。」
 何のこと?とばかりにこちらを向いた彼の一瞬の隙を奪って、私は額に手をあてがった。

「熱ちゃんと下がってますね。」
 私は嘘じゃなかったって呟く。

「…嘘つくかよ。」
 そっぽを向く速水さん。

さっきのおたまの時の仕返しだ、私もお玉を掴んでいるとはいえ、手を口元に運ばれて恥ずかしかったんだからちょっと。