「お前も吸う?」

彼は煙草の箱とライターを私に差し出す。

「いいえ、結構です。私は煙草吸わないので」

「知ってる。女性は煙草を吸わない方がいい。身体に悪いから、将来子供を産むときに悪影響になる」

そう言って彼は煙を吸ってから、ふうっと空に向かってはき出す。

私は煙草の煙は苦手だが、煙草を吸う姿は嫌いではなくむしろ格好いいとさえ思う。
特に彼の煙草を吸う姿は、一段とワイルドさを際立たせ様になる。

「副流煙のほうが身体に悪影響って言いますけど」

「確かにそうだな」

彼はもう一度煙を吸って吐き出すと、スーツのポケットから携帯灰皿をとり出し、火を消して煙草をしまった。

携帯灰皿を持ち歩いてるなんて、相変わらず律儀な人ね。
そういうところ感心しちゃうわ。

「お前さ、何があったの?」

私は彼の言葉にどきりとする。

「…何がですか?」

「お前らしくないじゃん。三笠に怒鳴るなんて」

私は驚いて彼の顔をしばらく見つめてから、はあっと深い溜め息をつく。

「…見ていたんですか?」

「偶然な」

まさか見られていたなんて。
そりゃあんなに大声で怒鳴ったら、同じ部署の1人や2人に見られていても仕方がないのかもしれない。
でもこの人には見られたくなかったな。

「お前さ」

彼は私のほうを見て、真剣な眼差しを向けた。

「なんですか」